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ケーススタディ

令和4年4月19日評価通達6項事件の最高裁判決について

Ⅰ 事案の概要

これは、札幌国税局管内の被相続人が、相続開始前3年5か月前と2年6か月前に評価通達価額の4倍の乖離がある不動産を銀行から借入をして購入し、相続税を0としたため課税庁が評価通達ではなく鑑定価額で更正した事件です。2物件の内一つは相続開始後に相続人が売却しています。

課税庁が評価通達と乖離が大きい不動産を相続開始直前に購入した案件について調査を行うことは、以前から行っていたことであり本件も同様の個別事案です。

平成2年のバブル当時は評価通達額と時価の乖離が大きい不動産を購入し、相続税の節税を図る事例が多かったため、旧措置法69条の4により相続開始3年以内に取得した土地等及び家屋については、取引価額により評価するとされていました。

この旧措置法69条の4は、平成8年には大阪の判決で逆転現象が起きたとして廃止されています。(法人の株式評価では残っています。)

数年前にタワーマンションを購入する節税対策について騒がれましたが、その時も課税庁は評価通達6項で個別に対処するとの発言があったかと思います。

従前から6項適用の基準について明確に示されたものはなく、判例や裁決を参考に判断をせざるを得ない状況でした。

今回の最高裁判決によっても明確な基準は示されてはいませんが、以下の判決内容から気をつける点がはっきりしたように思われます。

 

(1) 相続税法22条の時価

評価通達は法令ではない。相続税の課税価格に算入される価額は、評価通達価額を上回っても時価以下であれば相続税法22条に違反しない。

 

(2) 平等原則について

評価通達は課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値を上回っていなくても、合理的理由がない限り、平等原則に違反し違法である。

もっとも、評価通達による画一的な評価を行うことが、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合は、合理的事由があると認められるから、平等原則には違反しない。

 

(3) 本件評価通達によらない合理的事由について

本件不動産についてみると、本件不動産を購入・借入が行わなければ本件相続に係る課税価額の合計額は6億円を超えるものであったものが、課税価額の合計額は2,826万となり相続税が0円となり、相続税の負担が著しく軽減されている。

被相続人、相続人は本件購入・借入が近い将来発生することが予想される相続税の負担を減じ又は免れることを知り税負担の軽減を意図して行っている。

そうすると、本件不動産の価額について評価通達の定める画一な評価を行うことは、他の納税者との間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するので、合理的事由がある。

 

Ⅱ 今後の留意事項

  •  相続開始直前の購入。
  •  借入金による購入。
  •  評価通達の価額との乖離が大きい。
  •  相続税の負担が著しく減少する。
  •  不動産の購入が節税目的であることが明白である。

以上について総合的に判断をする必要があると思います。

今まで課税庁も6項適用について明確な基準があるわけではなかったので適用には慎重であったと思いますが、最高裁の判決により適用がしやすくなったかもしれないと思われます。

しかし、最高裁の判決でも乖離があるだけでは6項適用は違法であるとしていること、また、時価と路線価の乖離は納税者の責任ではないので、課税庁は6項の適用については一層の慎重さをもって行ってほしいと願います。

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